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仙台高等裁判所 昭和45年(ネ)519号 判決

主文

一、一審原告の請求について、原判決を次のように変更する。

1  一審被告は一審原告に対し原判決別紙目録(三)記載の建物を明け渡せ。

2  一審原告の請求中同目録(二)記載の建物の収去及び同目録(一)記載の土地の明渡を求める部分について、訴を却下する。

3  一審原告のその余の請求を棄却する。

二、一審参加人の請求について

一審原告及び一審被告の各控訴を棄却する。

三、訴訟費用は、第一、二審を通じ、参加により生じた部分は一審原告及び一審被告の負担とし、その余の部分はこれを五分し、その一を一審被告、その余を一審原告の各負担とする。

事実

一、申立

1  一審原告

(一)  原判決を取り消す。

(二)(1)  主位的請求

一審被告は一審原告に対し原判決別紙目録(三)の建物を明け渡し、かつ昭和四〇年一〇月一二日から右明渡まで一ケ月一、五〇〇円の割合による金員を支払え。

一審被告は一審原告に対し同目録(二)の建物を収去してその敷地である同目録(一)の土地を明け渡せ。

(2)  予備的請求

一審被告は一審原告に対し同目録(三)の建物を明け渡し、かつ昭和四四年六月一八日から右明渡まで一ケ月一、五〇〇円の割合による金員を支払え

(三)  一審参加人の請求を棄却する。

(四)  訴訟費用は一審被告及び一審参加人の負担とする。

(五)  仮執行の宣言。

2  一審被告

(一)  原判決中一審被告と一審参加人との関係部分を取り消す。

(二)  一審参加人の請求を棄却する。

(三)  参加により生じた訴訟費用は第一、二審とも一審参加人の負担とする。

3  一審参加人

(一)  本件各控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は一審原告及び一審被告の負担とする。

二、主張並びに証拠関係

(以下、一審原告を原告、一審被告を被告、一審参加人を参加人と、各略称する。)

左記のほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決の訂正

原判決の四枚目裏五行目及び六行目の「現状恢復義務」を「原状回復義務」と、八枚目表一二行目の「真義則」を「信義則」と、同裏二行目の「類似適用」を「類推適用」と各訂正する。

2  原告の主張(予備的請求原因)

(一)  仮に、乙建物の敷地に対する原告の賃借権が昭和四四年六月一七日限り消滅したとすれば、原告からこの土地を転借したと主張する被告との法律関係も同時に終了し、乙建物敷地転借に付随した甲建物内通路使用の法律関係も終了した。

(二)  被告は、原判決言渡後の昭和四五年一二月五日、原裁判所執行官に対し、「現状変更禁止の仮処分執行中のところ、最近建物の上部及び側部より雨漏り甚しく、このまま放置すれば腐朽の度を高め、居住使用に堪えない状態となること必至であるから、故障個所の修理を致したく、御許可いただきたい。」旨の上申書を提出し、階下店舗の大改造をした。

本件甲建物は、従来通路として使用され、空洞となつていたものであるが、被告は、右店舗改造にあたり、従来の店舗の出入口を閉鎖し、甲建物の通路入口を店舗の出入口に改造し、通路の空洞部分にカウンターを新設した。

甲建物に関する原被告間の法律関係が原審判断のとおりであるとすれば、被告の右改造は目的物の性質によつて定まつた用法の違反であるから、原告は被告に対し本訴において右契約解除の意思表示をする。

(三)  よつて、原告は被告に対し甲建物の明渡とその不法占有にもとづく損害金の支払を求める。

3  被告の主張

(一)  被告が原告主張のように階下店舗の改造をしたことは認める。被告は昭和四五年一二月五日原告主張の内容の上申書を執行官に提出したが、執行官は同月二二日に至りようやく臨場したのみで、約一七日間何らの措置をとらなかつた。被告は年末の多忙なところを大工を頼んでいたので、これを解約すれば相当額の損害金を取られるおそれもあり、前記のように早急に修理する必要もあつたので、やむをえず改造工事をした。したがつて、右改造は緊急避難に該当する。

(二)  参加人の原告に対する昭和四四年六月一六日付書面による契約解除の意思表示は権利の濫用である。

(1) 参加人は昭和三六年一月下旬頃、原告が被告に本件土地を転貸した事実を知つた。しかるに、参加人の参加申立は約八年後の昭和四四年六月二五日である。その間参加人は原被告間の前の訴訟の帰すうを見守つていたというが、右前訴は昭和四一年一月二七日の上告判決により確定し、被告の勝訴に帰したことは参加人にもわかつているはずである。更に、原告が本件訴訟を提起したのは昭和四〇年一〇月一三日であるが、参加申立はそれから三年半のちである。参加人は転貸借の事実を知りながら長い間(調停申立から約八年)何ら異議をいわず転貸借を黙過してきたのであるから、黙示的に転貸借を承諾したものである。

(2) 参加人は原告に対し、無断転貸を理由として賃貸借契約を解除したと主張するが、右解除の意思表示を記載した書面(丙第一号証)によれば、参加人は原告に対し郡山市字燧田九六番ロ宅地三五七・〇二平方メートルを賃貸しているところ、解除したのは被告の占有している二〇・二二平方メートルの部分だけである。右解除は無断転貸を理由としているから、原告の無断転貸行為が参加人に対する背信行為であることを根拠とする。そうであれば、解除は賃貸土地三五七・〇二平方メートル全部についてなされるべきであるのに、被告の占有部分二〇・二二平方メートルだけについてなされたのは何故であるか。思うに、前の訴訟は被告勝訴に確定し、本件訴訟も被告勝訴の色が強いので、原告と参加人が通謀して、両者間において被告占有部分のみ契約を解除し、参加人が形式上原告と被告を相手取り参加訴訟を提起し、理論上勝訴に導こうと図つたのである。

参加人は本件訴訟に勝訴し、仮に被告を追い払つても、残余の宅地部分については契約を解除していないから、被告明渡の後再び原告に賃貸することになるとすれば、契約解除の理由に反することになるわけであり、二〇・二二平方メートルの部分を新たに第三者に賃貸するとなれば、参加人と原告との関係が今後円満に行くとは思われない。

(3) 被告は、昭和三〇年一〇月以降今日まで参加人の黙示の承諾による適法な転貸借関係に基づいて生活関係を築き上げてきたのであり、かつ、転借人たる被告の現在の地位は参加人の八年間にわたる転貸承認の意思も加わつて形成されたものであるから、参加人は被告の生活関係を維持継続させることに協力する義務があると思料する。

結局、参加人の原告に対する契約の一部解除は衡平の原則に反するものであり、権利の濫用である。

4  被告の主張に対する参加人の答弁

被告の主張はすべて争う。

5  証拠関係(省略)

理由

第一、本訴に対する判断

一、郡山市字燧田九六番ロ宅地三五七・〇二平方メートルは参加人の所有であり、原告は参加人から右土地を建物所有の目的で賃借していること、被告は右土地の北西隅二〇・二二平方メートルの地上に本件乙建物部分を所有し、その敷地として右二〇・二二平方メートル(本件土地)を占有していること、右乙建物部分の南側に接続する本件甲建物部分は原告の所有であること、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、原告は、本件甲建物部分及び乙建物部分を被告に賃貸したと主張するが、当裁判所は、原告は被告に対し乙建物部分の敷地である本件土地二〇・二二平方メートルを転貸したものであり、これに付随して甲建物部分の無償使用を許容したものであると認める。その理由は原判決の理由と同じであるから、原判決一一枚目裏九行目から一三枚目裏一〇行目まで及び一九枚目表四行目から同裏七行目までを引用する。この点について、右認定に反する当審原告本人の供述は信用できない。

三、甲建物部分の明渡及び損害金の請求について

原告のこの点に関する主位的主張は甲建物部分の賃貸借を前提とするものであるが、前記のように右の賃貸借は認められないから、この点の主張は失当である。

次に、この点の関する予備的主張について判断するに、甲建物部分に関する原被告間の契約は、前記のように、乙建物部分の敷地の転貸借に付随した無償使用関係であると認められる。ところで、後に判断するように、参加人と原告との間の前記賃貸借契約は、乙建物部分の敷地たる本件土地二〇・二二平方メートルにつき、原被告間の無断転貸借を理由として参加人によつて解除されたので、これに伴ない、原被告間の本件土地の転貸借も原賃貸借の解除による終了と同時に消滅に帰したものといわねばならない。そうすると、右転貸借に付随した甲建物部分の無償使用関係も同時に終了したものと解すべきである。よつて、この点の原告の主張は理由がある。

なお、損害金請求については、甲建物部分の賃料相当額を認めるに足る証拠がないので、これを認容することができない。

四、乙建物部分の収去及びその敷地明渡の請求について

この請求は、原告が賃貸人たる参加人に対する債権者(賃借人)として、参加人の被告に対する所有権に基づく明渡請求権を代位行使するというにある。債権者代位権に基づく訴訟においては、原告が債権を有すること(本件においては、右敷地たる本件土地について賃借権を有すること)が前提要件であるが、後に判断するように、本件土地の賃借権は参加人の解除により消滅したものであるから、原告は代位権行使の前提要件である債権を有しないことになる。したがつて、原告はこの点の請求について当事者適格を有しないものであるから、右代位権に基づく訴訟は不適法として却下すべきである。

被告は、参加人の原告に対する賃貸借契約の解除は権利の濫用であると主張するので、次にこの点の判断を示す。

被告は、右主張の根拠の一つとして、参加人が原告の被告に対する本件土地転貸借を黙示的に承諾したと主張する。しかし、右主張は採用することができない。その理由は原判決の理由と同一であるから、原判決一四枚目裏三行目から一六枚目裏九行目までを引用する。

次に被告は、参加人の解除が賃貸土地三五七・〇二平方メートルのうち被告占有の二〇・二二平方メートルだけであることをとらえて、参加人と原告が通謀して被告の追出しを図つたものである旨主張する。ところで、賃貸土地の一部の転貸借の場合に、それは賃貸人に対する背信行為であるから、賃貸人は賃貸土地全部について賃貸借契約を解除することができるということは、一般論として一応言えることである。しかし、全部の解除ができる場合に一部の解除にとどめることは、自ら権利の行使を控えることであつて何ら差支えないことであろうし、また、一部の転貸借の場合に、全部の解除をすべきでなく、一部の解除にとどめるのが妥当であると解すべき場合もあろう。被告主張のように解除は全部についてなすべきであるということは、妥当な見解とは思われない。

本件の場合は、転貸借部分は三五七・〇二平方メートルのうち二〇・二二平方メートルであつて、賃貸土地の約六%である。そして、当審における原告本人の供述及び検証の結果によれば、原告は本件土地以外の賃借土地上に建物を所有し、その一部に自ら居住し、他の部分を松林飲食店ほか二名(のちに一名減つて、ほか一名となる)に賃貸していることが認められる。このような場合、もし賃貸土地全部について解除すれば、何らとがむべき点のない他の家屋賃借人にまで深刻な影響を及ぼすこととなる。したがつて、本件の場合は、解除を転貸借部分にとどめる方がむしろ妥当なやり方であると考えられる。被告主張のように、被告占有部分のみの解除をもつて参加人原告間の通謀を推論することは当らないことである。なお、参加人と原告とが通謀して被告の追出しを図つたということは何ら証拠のないことである。

以上の故に、参加人の一部解除は権利の濫用とは認められない。この点の被告の主張は採用できない。

第二、参加に対する判断

一、参加訴訟は二重起訴に当るとの被告の主張について

参加人の請求中、被告に対する乙建物部分収去とその敷地明渡を求める部分は、原告の債権者代位権に基づく請求と訴訟物を同じくするから、参加人の右請求はいわゆる二重起訴に該当するかのようである。しかし、債権者代位権に基づく訴訟が不適法として却下される場合には、同一訴訟物に関する債務者自身の提起する訴訟は二重起訴に該当しないものと解すべきである。本件においては、前記のように、原告の債権者代位権による訴訟は不適法として却下されるべきものであるから、参加人の右訴訟は二重起訴に該当しないと解する。故に、この点の被告の主張は失当である。

二、原告に対する本件土地賃借権不存在確認について

前記九六番ロ宅地が参加人の所有であり、参加人がこれを原告に賃貸していること、原告は右宅地中の本件土地を被告に転貸したことは、前記のとおりである。右転貸借について被告は黙示の承諾を主張するが、それが認められないこと前記認定のとおりであり、ほかに右転貸借について参加人の承諾がある旨の主張立証の全然ない本件においては、右転貸借は参加人の承諾のないものであるといわなければならない。

参加人が原告に対し、昭和四四年六月一七日到達の書面をもつて、右無断転貸借を理由として転貸部分(本件土地二〇・二二平方メートル)につき賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは原告の自白するところである。したがつて、参加人と原告との間の賃貸借契約は右同日をもつて本件土地の部分につき解除により終了したことになる。右解除が権利濫用であるとの被告の主張が失当であることは前に判示したとおりである。

原告は本訴において本件土地の貸借権の存在を主張している。よつて、この点の参加人の主張は理由がある。

三、被告に対する乙建物部分収去とその敷地明渡請求について

被告が乙建物部分を所有し、その敷地として本件土地を占有していること、被告が本件土地の無断転借人であることは、いずれも前記のとおりである。

被告は、参加人の右請求が権利の濫用であると主張し、また、乙建物部分の買取を請求する。しかし、右主張はいずれも採用できない。その理由は原判決の理由と同一であるから、原判決一七枚目五行目から一九枚目表三行目までを引用する。

よつて、この点の参加人の主張は理由がある。

第三、結語

以上の理由で、参加人の請求はすべて認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当であつてこの点の本件各控訴は失当であるからこれを棄却することとし、原告の請求は、甲建物部分の明渡を求める部分は理由があるので認容すべきであるが、乙建物部分の収去とその敷地の明渡を求める部分は不適法であるから却下すべきであり、その余の部分は棄却すべきであるので、右と異なる原判決を変更することとし、右認容部分について仮執行宣言は不相当と認めるのでこれを付さないこととし、民事訴訟法三八四条、三八六条、九六条、八九条、九二条、九三条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

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